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  • 執筆者の写真yaasuu

生きた姿

更新日:8月16日

大きな運河沿いを自転車で走り

それをちょっと越えたところに Tさんの家はありました。


「昔はにぎやかだったのよ。今はほんとさみしくなった」と言いながら

昔の賑わいをよく話してくれました。



ターシャ・テューダーという

スローライフやガーデニングで有名な人が好きで

その暮らしにあこがれている、

とも話してくれました。



そのためか Tさんは何でも自分でつくることができて、

家の前のプランターで上手に花を咲かせたり、

いろんな手作りの瓶詰めを見せてくれたりしました。



体調はあまりすぐれず 買い物には行けなくて、

たのんで買ってきてもらったものを

いつも手際よく仕分けし、

切ったりラップして冷凍したりしていました。


ひとつも無駄を出さないTさんに いつも感動をおぼえていました。



丁寧に保存した材料をつかって

毎食、家族のためにおいしそうな料理をつくっていました。


Tさん自身には食事制限があり

好きなものを食べたり飲んだりすることが叶わず、

訪問するといつも

がんばって食事制限していることを話してくれました。



体調が悪くても、自分は食べることができなくても、

毎日おいしい料理をつくり続けていました。






すこし境遇が似ているところがあって、

勝手に お姉さんのように思っていたTさんでしたが、


ある日突然、天国へ行ってしまいました。




数ヶ月たったころ、

Tさんにいただいた手作りの干し椎茸を思い出し

高野豆腐と一緒に炊いてみました。

いいだしが出て とってもおいしくて、

料理のつたなさを うまく隠してくれていました。



「生姜はみじん切りと千切りとスライスと、

 3種類にして冷凍しとくの。

 そしたら便利でしょ!」



スーパーで生姜を買うときTさんのことを思います。

帰ってちゃんとスライスして冷凍できたら

ちょっといい気持ちになり、

めんどくさくてそのまま冷蔵庫にいれてしまったら

後ろめたい気持ちになります。



あんなにしんどくてもいつも食べ物を大切にし

家族を大切に考えていた

Tさんの顔が浮かびます。









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